マスキングソフト解説: 初級編(外耳道閉鎖効果なし)
マスキングシミュレータ(MasqueVue)の解説ページです。
本シミュレータは聴力検査時のマスキングで起こっている現象を可視化して理解を容易とすることを目的としています。
まずは単純な「外耳道閉鎖効果」なしの場合を説明します。
※マスキングの詳細については成書(日本聴覚医学会編「聴覚検査の実際」など)を御参照下さい。
パラメータと操作ボタンの説明
表の中にある設定可能なパラメータは以下の通りです。メニューで選んで「パラメータ変更」ボタンで変更できます。
- CR:(左右)骨導閾値
- AB:(左右)気骨導差
- OC:必ず”0(ゼロ)”に設定
- TA:気導両耳間移行減衰量(下記参照)
- TB:骨導両耳間移行減衰量(下記参照)
- AB≦TA の関係があります
操作ボタンの説明
- 骨導・気導を選んで「更新」を押すと切り替わります(@)
- 右側が検耳・左側が非検耳(マスキング側)に固定されています
- 音圧を選んで(A)右に純音を呈示します(もう一度押すと音が消えます)
- 音圧を選んで(B)左にマスキング音を呈示します(もう一度押すと消えます)
- 蝸牛マーク(C:左右)以上の音圧の純音が伝わり、かつマスキング音圧がそれ未満の時に純音が認識されランプ(D:左右)が点灯します
- 測定されるべき閾値(気導・骨導のマーク位置:E)において右側のランプ(赤)が点灯し、左側(青)は消灯していなければなりません
- 左側(青)が先に点灯する場合は反対側の耳で聞いている状態(交叉聴取:クロスヒアリング、陰影聴取:シャドウヒアリング)です
両耳間移行減衰量(骨導)
- 骨導受話器(乳突部に当てた振動子)からの骨導音は頭蓋骨を伝わって反対側の内耳に達し、蝸牛に進行波を作ります。
- この間の減衰量は0〜5dB程度です。すなわち、反対側の耳でもほとんど同じ大きさで聞こえるということになります。
両耳間移行減衰量(気導)
- 気導受話器(イヤホン、ヘッドホン)からの気導音も頭蓋骨を振動させる効果があり、減弱した骨導音として反対側の内耳に伝わります。
- この間の減衰量は50〜60dB程度です。従って気導検査でも反対側の耳で聞こえることがあるわけです。
マスキングの必要性と実例(骨導)
- マスキングは刺激音が反対側の内耳によって先に聞こえてしまう(交叉聴取)のを防ぐために行われます。
- 反対側の耳にバンドノイズの気導音を聞かせることによって純音をマスク(聞こえなく)します。
- 骨導検査の場合には検査音がほとんど減衰することなく反対側の蝸牛に伝わるため、必ずマスキングを行います。
- 例えば次のような場合、マスキングをしないと本来の右骨導閾値より小さい音を左側の蝸牛が感知するため、誤った低い閾値となります。
(赤いランプが点灯する前に青いランプが点灯してしまう)
- ここにマスキング音を付加するとこのように正しい閾値を得ることができます。
- 画面中央(ヘッドホンの中、Bone Airの表示のある部分)をクリックすると、下のように左右それぞれに伝わる刺激音・マスキング音の大きさと、その理由(計算式)が示されます。
- 注意:マスキング音の値(dB)は、実用上同じ大きさの純音をマスクする(聞こえなくする)ことを意味します。
画面の数値の後に+(プラス)マークを付けているのは学問的な正確さのためで、例えば50+dBとは実効マスキングレベルで50dBよりごく僅かでも(0.1dBでも0.0001dBでも)大きな音量を意味します。
これはJIS規格において、マスキングのdB値は「ぎりぎりマスクしない」音量と規定されていることから来ています。
マスキングの必要性と実例(気導)
- 気導検査においても、反対側の骨導閾値が同側に比べて良い(低い)場合にはマスキングが必要になってきます。
- 例えば次のような場合です。
- マスキングをすることにより、正しい気導閾値を測定することができます。
オーバーマスキング
- 非検耳(反対側)に対するマスキングの音圧を強くしすぎると、マスキング音が骨導音として検耳に伝わってこちらまでマスクしてしまうことがあります。
- すると、マスキングをしなかった場合と逆に検耳の閾値が悪く(高く)なってしまいます。
- 骨導検査におけるオーバーマスキングの例を示します。右側の骨導閾値の大きさの純音が反対側(左側)からのマスキング音でマスクされ、赤いランプが点灯していません(聞こえていない)。マスキングの音量は適正な値を選ぶ必要があります。
マスキングプロフィール
「Profile表示」ボタンを押すと、両側の骨導・気導のマスキングプロフィールが表示されます(右は赤、左は青)。
これは、マスキング量を変えて行った時に測定される閾値がどうなるかを示すものです。左端に測定されるべき閾値をマークで示します。(蝸牛マークは無視して下さい。)
本ソフトウェアでは、右側を純音・左側をマスキングと決めているので、赤の部分のみを注目します。色が薄い部分はマスキング不足・濃い部分はオーバーマスキングを意味します。
表の中のBCnmはマスキングなし(反対側外耳道は閉鎖)の骨導閾値を、IMはマスキング不足・OMはオーバーマスキングを意味します。