SimuAudio 問題No1の解説
- 純音聴力検査シミュレーションソフトウェアSimuAudio 問題No1の解説ページです。
- 問題No1はAudiology Japan(聴覚医学会誌)の投稿規定に登場するオージオグラムですが、純音聴力検査における様々なテクニックを包含しています。
- 従ってこの解法を理解すれば聴力検査法の基本を習得することができます。
1.マスキング無しでの両側気導閾値の測定
- マスキング無し(Mask OFF)の状態で両側の気導聴力閾値を測定します。これは簡単です。
- 周波数選択ポイントに橙色の点滅があるのは気導検査のマスキングを促すインジケータですが、ここでは気にせず先に進みます。
2.マスキング無しでの両側骨導閾値の測定
- マスキング無し(Mask OFF)の状態で両側の骨導聴力閾値を測定します。これも簡単です。
- 骨導の情報が加わったことで気導検査のマスキングを促す橙色の点滅が減少したのが分かります。
3.マスキング下での右側骨導閾値の測定
- まず、気導閾値の悪い右側の骨導を(左側の)マスキング下で測定します。気導閾値の良い左側の方がマスキングを掛けるのは容易(小さい音圧で済む)です。
- 水色の点滅で安全なマスキングレベルの目安を示しています注1。1,000Hzの測定を下図に示します。
- 引き続き2,000Hzを測定します。最高音圧にしても反応無しなのでスケールアウトとします(下図)。4,000Hzも同様に測定してください(こちらもスケールアウトとなります)。
- しかし、500Hzでは安全と考えられるマスキングレベルではマスキング量が不足であることが分かります(50dB純音が反対の左側で聞こえてしまっている)。
- これは低音部では外耳道閉鎖効果により骨導音が増強される(外耳道から外へ音エネルギーが逃げ出さなくなる)からです。
- この様な場合にはマスキングプロフィールを用いてプラトー法により閾値を決定します。55dBにプラトーがあるのが分かります。
- 250Hzも同様に行います。45dBにプラトーがあります。実際にはプラトーを全部出す必要は無く、閾値が上昇しなくなったところで止めて構いません。
- これで右側の骨導閾値が決定されました。全て左のマスキング無しの骨導閾値より十分悪い注2ので、左の骨導閾値はマスキングを行わずにそのまま確定して構いません。従って骨導検査はこれで終了です。
4.マスキング下での右側気導閾値の測定
- まだ気導閾値の確定が不完全です。気導のマスキングを促す橙色のインジケータ注3がいくつかの周波数で点滅しています。
- まず4,000Hzを測定します。マスキングをかけるとマークが暗赤色に変化します。
- 骨導値を考慮に入れた安全レベル最大のマスキングをかけると、閾値は95dB⇒100dBとなります。
- 右側の図(Masking View)からオーバーマスキングにはなっていないのが分かります。
- 次に8,000Hzですが、こちらは骨導は測れないのでマスキングの目安が表示されません。
- このような場合には対側(この場合は左)の気導閾値レベルからマスキング音をだんだん大きくして行って(右)気導閾値の上昇が止まるレベルを探します(骨導プラトー法と同様です)。
- 本例では閾値の上昇が止まらずに最大音圧に達してしまうので、スケールアウトとなります。
- これを示す気導マスキングプロフィールが下図です(これは正解表示ONとしないと表示されないので後で確認してください)。右気導マークが薄赤色なのはマスキング不足を意味しています。
- 500Hzも同様に対側(この場合は左)の気導閾値レベルからマスキング音をだんだん大きくして行きます。しかし(右)気導閾値の上昇は起こらないので、このままの閾値で確定して良いことが分かります。(もちろん安全なマスキングレベルの目安を利用して初めから大きめの音圧をかけても構いません。)
- 125Hzも全く同様で、対側気導閾値レベルからマスキング音を大きくし行っても閾値の変化は起こりませんのでそのまま確定します。(骨導値は無いのでマスキングの目安表示はありません。)
5.正解の表示
- 最後に正解を表示させて答え合わせをします。正解はバックグラウンドで点滅するので正解表示と異なる部分に点滅が見えます。
- 左骨導はあえてマスキングをしなかった(>マーク)ので後ろに]マークの点滅が見えますがこれは問題ありません。正解に到達できたことが分かります。
- 症例モデルのパラメータとしての蝸牛固有能(CR: Cochlear Reserve, 蝸牛マーク)も右側の図に表示されます。
- Masking View / Profileを切り替えながら本症例モデルがどのような振る舞い(反応)をするのか確認できます。
注1・注3 安全なマスキングレベルの目安も気導マスキングのプロンプトも単なる「目安」に過ぎず、絶対的なものではありません。
これらの詳細については下記の参考文献を御参照下さい。
- 日本聴覚医学会(編):聴覚検査の実際(改訂3版).南山堂,東京,2009
- 服部 浩:図解実用的マスキングの手引き(第4版).中山書店,東京,2009
- 服部 浩:基本的聴覚検査マニュアル(第3版).金芳堂,京都,2010
注2 目安としては外耳道閉鎖効果(OC)以上の左右差があった場合に骨導の良い方の測定にはマスキングの必要が無くなります。
低音部で左右差が少ない場合には骨導閾値の良い方の測定でも対側のマスキングが必要であり、これはあまり知られていない印象があります。